家族のじかん
カテエネ

父も兄も甥も大工の四日かな

有本仁政

講評

代々大工の家系なのです。「父も兄も甥も」もちろん自分も大工で、一緒の現場で働いているのでしょう。正月三が日には、職人ならではの話題で盛り上がったに違いありません。さあ四日は、手斧始(ちょうなはじめ)や鉋始(かんなはじめ)などの、大工ならではの儀式で仕事始です。うち揃って建築現場へ向かいます。

愛犬の吐息落ち着く鰯雲

村澤庵

講評

いつもとは違って何かに怯えているかのような愛犬の様子に、心配で寄り添っていたのでしょう。やっとその息が落ち着いてきました。波立つ不安のように見えていた鰯雲が、今は澄んだ秋空に悠々と広がっています。

軽トラの夫婦旅行や望の月

杏乃みずな

講評

仕事に使っている軽トラでしょうか。ふと思いついた、夫婦の気儘なドライブ旅を思いました。美味しいものを食べ、思い出を語り、喧嘩もするでしょう。しみじみと睦まじい旅路を、中秋の名月が見守っています。

案山子似の夫を立てて野良仕事

山下裕子

講評

夫似の案山子ではないのが可笑しい一句。麦藁帽、首に手拭い、軍手を嵌めて野良仕事に万全の姿でありながら、余り戦力にならない夫は、勤め人でしょうか。まるで案山子ね……と作業を進める妻なのかもしれません。

とまと好き小中高を無欠席

ミッチー

講評

小中高校の12年間「無欠席」を成し遂げた人物は、栄養たっぷりな「とまと」好きだというのです。無欠席で卒業した本人の句でしょうか。もしかすると、子供を「とまと好き」に育てた親目線の句なのかもしれません。

原爆忌足だけ見えるベビーカー

勇緋ゆめゆめ

講評

押しているベビーカーでしょうか、あるいは向こうから来るベビーカーでしょうか、小っちゃな足が覗いています。健康と幸福と未来の象徴である赤ちゃんの足。今日は、全てが一瞬で吹き飛ばされてしまった原爆の日です。

猫とゐてひとり花火を胸に聴く

琴乃夕月

車椅子の母待つ路地へかき氷

ごん

なぞなぞの答え通じぬ宵の秋

西村典万

帰省子のもう好きじゃないバター焼き

居並小

子のパンク自転車取りにゆく盛夏

有本典子

俯きて栗剥く妻の時間かな

島田和典

空豆の莢を開く子取り出す子

栗田すずさん

クーラーや我弾く音を我が聴く

諏訪のふな

五つ目の鯛焼きみんなチョキを出す

ヤギゾー

初風呂や折り目のつきし湯手ぬぐい

円はは

孫の声先に入りくる夏休み

満開

終戦忌写真の祖父の丸眼鏡

美乃理

麦とろや三代つづく泣きぼくろ

升 正

愛の日にゼンマイ軋む古時計

有美子

マシュマロと娘とろける焚火かな

雪見だいふく

白シャツの父と見紛う息子の背

茶留

絵本読むあぐらの中の夜長かな

紅紫あやめ

陽に合はせ傾ぐパラソル父と子と

満子

海の日に妻と二人で病臥かな

六文銭

窓際を避けて酷暑のふたりめし

くうみん

子あつまる裏返しの蝉三十分

HIROKO

母と眺む施設の裏の孟宗竹

香津

春の宵祖父の小さき子守り唄

清水美沙

夜桜にトランポリンを飛ぶ我が子

華風

野分の夜親の寝床で風を聞く

辰巳

ママまだか泣く弟と天の川

市川

食卓と介護ベッドと初笑

二丁目蘂六

孫が呼ぶ遠き頂草いきれ

オコジョ

商店街一人駆けてく夏休み

井上さやか

ケンカして夜濯ぎのシャツ手をつなぐ

郁子

最優秀賞・優秀賞・入選の入賞句は
サイトに掲載されるとともに、
入賞者には、夏井先生のサイン入り書籍や、
俳句のための 文具ブランド「句具」より
厳選したアイテムをプレゼントします。

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