家族のじかん
カテエネ

さあ、あたたかなニッポンにかえろう。 さあ、あたたかなニッポンにかえろう。

子どもは、
絵本の中の世界に入る達人

  • 後藤

    きょうは、絵本に詳しい三輪さんと、俳句が好きな私の対談形式で、「子ども」と「こどば」について、いろいろお話をしていきたいと思います。
    絵本には、四季や年中行事を意識した題材のものも多いですが、やはりそうした絵本は、季節ごとにお客様からの注目度が上がる感じはありますか?

  • 三輪

    たとえば夏の暑さが和らいで、涼しくなってくると「秋の絵本ありますか?」とか、「ハロウィンの本がほしい」とか、そういう方がたくさん来店されます。
    それもひとつのきっかけだとは思いつつも、でも実は季節を過度に意識しているのは大人だけで、実は子どもって、大人が思うほど季節感にこだわりはないんですよね。

  • 後藤

    なるほど。

  • 三輪

    「絵本のなかに入り込んで、その世界で自由に泳ぎ回って遊ぶ」というのが、子どもの絵本の楽しみかた。
    本の世界なら、現実世界とは違う季節へも飛んでいけるし、なんなら宇宙にも行けるし、魔法だって使える。だから僕は、真夏にクリスマスの絵本を読んで冬に飛び込むのもいいと思うし、現実の季節と無理に合わせる必要はないと思うんですよね。

  • 後藤

    確かに、どんな季節にも、どんな世界にもすぐに飛び込めるのが、絵本のいいところですよね。

  • 三輪

    四季や行事の絵本は、子どもが物語に出会うきっかけにはなるかもしれないけれど、それ自体が目的になってしまうともったいないな、と。
    子どもはただ純粋に、その絵本の世界を覗きたいだけなんだよね。
    だから「この絵本はこの時季じゃなきゃ」ってことは絶対ないし、そもそも絵本は四季や年中行事を学ぶために教材的に読むものではないと、僕は思っています。

  • 後藤

    暑い夏にサンタクロースに会いに行けるし、寒い冬に水遊びだってできる。
    絵本のなかには、自由自在な世界が広がっていて、子どもたちはそれを遊び倒す天才なんですね。

  • 三輪

    そう。
    たとえば主人公がいるとしたら、子どもはその主人公に自分を投影させて、物語のなかにすうっと入っていく。それでドキドキしたり、ワクワクしたり、世界のなかに入り込んで楽しんでいるんですよね。
    子どもには子どもの世界があって、それは大人が求める世界とは全然違う世界かもしれない、といつも思っています。
    もうひとつ言うと、絵本は 読んだときが最高潮ではない。読んでもらった絵本、自分で読んだ絵本が、いつ彼らのなかで解釈されていくか、思いが込み上げてくるか、それは誰にもわからないんだよね。
    もしかしたらそれは大人になってからかもしれないし、意外な出来事がフックになるかもしれないと思います。

絵本も俳句も
「引き算の美学」がある

  • 後藤

    三輪さんが、絵本を選書するときに気をつけていること、大切にしていることはどんなことですか。

  • 三輪

    いろいろありますが、絵本は言葉の通り「絵の本」だから、やっぱり絵の存在や、「絵から感じ取れること」、その余白を、選書をするうえでもとても大切にしています。
    だから僕は、絵がちゃんと描かれている本というのは、意識しています。

  • 後藤

    なるほど。

  • 三輪

    絵も文も、とにかく情報量が多ければいいというわけではなく、子どもがその世界観へ入っていく余地が残されている。巧妙に“引き算”されているんです。絵本は「引き算の美学」だと、僕は思っています。
    ここは絵をしっかり見せるところ。ここは文が多めで絵はおおらかに。この見開きには文はナシで絵だけ。
    そういうメリハリがあったり、次へ進みたくなるようなリズムの良さや、ことば遊びがあったり…。

  • 後藤

    絵本によっても、その手法は異なりますよね。
    言葉のリズムが軽快な絵本も、とても多いイメージです。

  • 三輪

    絵本にはいろんな種類があって、そのうちのひとつに「リズムで読ませる」本があります。
    すべての絵本がそうではないですが、語感や言葉のリズムがとても考えられていて、それがひとつのフレーズに、ぎゅっと凝縮されている。
    絵本は大人が声に出して読むことが多く、「耳から入ってくる言葉」だから、読んだときや聞いたときの気持ちよさ、耳馴染みの良さみたいなのも考えられていると思います。

  • 後藤

    私自身、息子たちに読んでいて感じるのは、年齢の低い子向けの絵本に、比較的言葉のリズムが意識された本が多いように感じます。

  • 三輪

    すべてではないですが、リズムが多用される本は対象年齢2才くらいまでの絵本に多くて、同じフレーズの繰り返しによって展開を想像させたり、擬音語・擬態語が楽しいもの、リフレインによって世界観が広がるもの…。
    いろいろありますね。
    一定のリズムを刻んでいくことで、世界が広がっていく子もいれば、脳内で音楽が流れている子もいると思います。

  • 後藤

    なるほど。
    楽しいリズムを聴きながら、頭の中でいろんな世界が広がっていくんですね。

  • 三輪

    そうそう。子どもが想像するために、余白を奪わない。それが絵本の「引き算」だと思います。

  • 後藤

    俳句もまさに「引き算の美学」だと、私も思っています。
    五七五の文字情報にいろんなものが凝縮されていて、その俳句から何を感じ取るかは読み手次第。人それぞれ、全然ちがう光景を思い浮かべていてもいいんです。

  • 三輪

    なるほど、確かにその「うまく引き算されたことで、読み手に想像の余地がある」という点は、ひとつ似ているポイントなのかもしれない。

親子で一緒に楽しむ、
絵本と俳句

  • 後藤

    親として、子どもに絵本を読んであげるときに「こういう気持ちで読むといい」みたいな心構えが、何かあったら教えていただけませんか。

  • 三輪

    まずね、「読んであげる」んじゃなくて、「一緒に楽しむ」
    その感覚をつかむことからかな。

  • 後藤

    なるほど…!

  • 三輪

    「読んであげる」って、どこか上から目線なんですよね。
    そうじゃなくて、一緒にその世界観を楽しんじゃえばいい。
    たとえば、子どもと一緒に海やプールに行って遊ぶのと同じように、絵本も一緒に楽しんじゃう。

  • 後藤

    「読んであげる」ではなく、「一緒に楽しむ」。

  • 三輪

    そうそう。
    海に行ったら、大人は泳いで楽しんでいて、子どもは浮き輪に乗って浮かぶのが楽しくて、それぞれ楽しみかたが違う。絵本もそうなんですよね。
    だから、絵本も「子どものために!」「子どものためになるものを!」って力を入れるんじゃなく、なんなら自分のために読めばいいと思う。
    子どもは、絵本を一緒に楽しむパートナー。そういう相手のいるエンターテインメントだと考えてほしいなと、いつも思っています。

  • 後藤

    「絵本を一緒に楽しむパートナー」!

  • 三輪

    しかもね、小さなパートナーの方がずっと優れていることのほうが多い(笑)。

  • 後藤

    確かに、そうかもしれないです(笑)。

  • 三輪

    子どもは、どんどん世界観を広げていく想像力の天才だから。
    ちょっとしたことにも気づくし、大人が見過ごしてしまうことに、疑問を持ったりもする。俳句も、同じなんじゃない?

  • 後藤

    まさにそうですね。子どもが「気づく力」を感じる場面はとても多いですが、我が家は「俳句」や「季語」がとても身近な家なので、子どもの想像力や気づきに、大人の方がハッとします。

  • 三輪

    お子さんも、俳句を詠んだり?

  • 後藤

    我が家の場合は、私も夫も俳句をかじってるので日常会話で「俳句」とか「季語」とかっていうワードが割と出てきたり、俳句番組をみんなで見たりするんですよね。
    そうすると子どもが、いきなり短い詩?フレーズ?みたいなものをつぶやき出して「はいく、できた!」って教えてくれます。
    全然俳句になってないことの方が多いですが、直したり突っ込んだりはせず、「いいね!」と褒めてから、私はこっそりメモしてます(笑)。

  • 三輪

    いいね。

  • 後藤

    あとは息子が「季語」という存在を知っているので、たまに思い出したように「雪って季語?じゃあ雨は?夜は?」みたいな質問してくれることがあって。子どもの想像力ってすごいなと、そのたびに思います。

  • 三輪

    そうそう。大人が考えもしないことに気づいて、広げてくれるよね。まさに、絵本も一緒。

  • 後藤

    そうなんですよね。先日は「マヨネーズって、季語っぽいよねえ」といきなり言い出して、家族みんなでそれについて話したのが、すごく楽しかったんです。もちろんマヨネーズは季語ではないんですが、話を聞いてると、だんだん季語に思えてくるから不思議(笑)。
    「言葉のなかには“季語”というものが存在している」ということさえ覚えたら、あとはどれだけでも想像力を広げてくれるから、子どもは本当に面白いな、と。

  • 三輪

    俳句や季語と一緒で、絵本や児童文学もすごく深い。さっき引き算の美学って話をしたんだけど、言葉ひとつから想像できる世界がとても広いよね。

  • 後藤

    そうですよね。私自身、俳句や季語を通して、たったひとつの言葉から、こんなに世界が広がっていくんだ!というのをいつも感じていますし、時には息子たちから教えてもらうことも多いです。

  • 三輪

    親が「与えてあげる」「教えてあげる」という目線じゃなく、家族で、親子で、
    「一緒に楽しむ」ことが、実は一番大事なんだよね。
    絵本でいうと、同じ絵本を一緒に開いて、それぞれ全然違う世界観を思い
    浮かべて…って、すごくいろんな楽しみかたができる。
    最高のエンターテインメント
    だと、僕は思います。

  • 後藤

    親子や家族というのは、それを一緒に楽しむことができる大切なパートナーだと、先ほど三輪さんに教えていただいたことがとても響いています。
    そして「言葉」が持っている力を、改めて感じました。
    言葉一つひとつを大切にして、家族みんなで深めたり楽しんだり、そこから想像力を深めていくことができれば、それはきっと子どもにとっても大人にとっても、小さな成長や人生の楽しみになるんですよね。
    これからも子どもたちと一緒に、楽しみながらことばで遊べたらいいなと思います。

江戸時代のこころは、今につながるエネルギー。 江戸時代のこころは、今につながるエネルギー。

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