
冬の厳しい寒さの中では、ついエアコンの設定温度を上げてしまいがちです。そんな寒い日ほど、「温かい料理」が恋しくなりますよね。
「温かい鍋料理や、ピリ辛の料理を食べると体がポカポカする」。これは、多くの人が一度は経験したことのある感覚だと思います。では、その「ポカポカ」をうまく活用することで、エアコンの消費電力を抑えることはできるのでしょうか?
今回の実験では、食べものの「温度」と「辛さ」が、身体や心にどのような影響を与えるのかを検証しました。食事によって変化する皮膚温や心拍数、そして「心地よさ」との関係を調べます。
実験の条件
食べものの温かさ(温度)と辛さを変えた条件で、食後60分間の生理反応(体温・心拍)と心理反応(温冷感・快適感)を測定しました。
具体的にはカレーの「甘口」「辛口(大辛)」を、それぞれ温かい状態・冷めた状態で4パターン用意し、食後の皮膚温、耳内温、心拍数の測定のほか、被験者には「温冷感」「熱的快適性」を申告してもらいました。
今回は、「温かい&辛い食事により節電ができるのか?」が論点のため、食事前に室温を2℃下げ、その変化を記録していきます。
温かいものを
食べた直後、
体温が一気に上昇
まず調べたのは、食後の体温の変化です。食事によって、体温はどのように変化していくのでしょうか。このグラフは、被験者6名の平均値から算出した「平均皮膚温の変化量」を示したものです。
食事前までは大きな差は見られませんでしたが、食後は時間の経過とともに、「温かいカレーを食べた人」のほうが、皮膚温の低下が抑えられていることがわかります。
さらに注目したいのは、耳で測定する「耳内温」の変化です。耳の鼓膜周辺は、体温調節の司令塔である脳と近い位置にあり、血流の変化も共有しています。そのため、耳内温を測ることで、身体の内部の温度、いわゆる「深部体温」を推定できるとも考えられているのです。
今回の実験でも実際に、皮膚温よりも「耳内温」のほうが、より大きな変化が確認できました。
室温の低下に伴って、耳内温も一時的に下がりましたが、その後温かいカレーを食べた場合のほうが、明確に耳内温が上昇していることが、グラフから読み取れます。
冷めたカレーを食べた場合との差も大きく、「温かい食事をすることで体が温まる」という現象が、数値としてわかりました。
- 平均皮膚温(MST)…皮膚の温度を測定するための指標。額、腹、前腕、手背、大腿、下腿、足背の7つの部位の温度を測定し、これらの温度を全表面積に占める割合をもって加重平均したもの。
- 耳内温(じないおん)…耳の中(外耳道)で測定した温度のこと。皮膚表面の温度と異なり、外気温の影響を受けにくい。「深部体温」の代替温として身体への負担もなく簡易的に測定できるため、生理学の実験で広く用いられる。
温かいvs辛い、
どちらのカレーの方が
“ポカポカ”する?
食事のあと、とくに辛いものを食べたときなどに、体に火がついたようにポカポカしてくる感覚を覚えたことはありませんか。
今回の実験では、この現象を「心拍数」に着目して考えてみます。
食べはじめたタイミングで、心拍数が上昇していることがわかります。
さらに、甘口のカレーに比べて辛いカレーのほうが、心拍数の上昇がより大きいことが確認できました。
省エネ効果は
「ごく僅か」でも、
快適感は大きい
実際に被験者本人がどのように感じているのかを確認するため、暑い・寒いといった「温冷感」や、「熱的快適感」を申告してもらう実験も行いました。
食後10分間は、エアコンの設定温度を2℃下げた場合でも、通常時より「温かい」と感じるほどの効果が見られました。
また、食べものの温度が同じ条件では、甘口よりも「辛いカレー」のほうが、熱的快適感(心地よさ)が高まる傾向にありました。
エアコンの設定温度を2℃下げた場合の10分間あたりの節電量はわずかではありますが、温かいものや辛いものを食べることによって「寒さを感じにくく、心地よく過ごせる」時間が生まれることが、今回の実験から確認されました。
さらに、食後30分以降は、食べものの温かさや辛さにかかわらず、耳内温・温冷感・熱的快適感がいずれも高くなる傾向が見られました。
条件の違いに関係なく、食事そのものが身体を温め、快適側へと感覚を導いていることがわかります。
- 温冷感・熱的快適感 …被験者がその時に感じている「暑さ・寒さの度合い(温冷感)」や、「心地よさの度合い(熱的快適感)」を、心理尺度に基づいて申告する評価手法のこと。温度計では測れない心理的な反応を数値化するため、温熱環境学の分野で標準的に用いられています。
※実験結果は一例であり、体質や環境によって結果が異なる場合があります。
今回の実験は、摂南大学 理工学部 建築学科の宮本征一教授との共同研究により実施いたしました。
