カテエネ・ライブラリー

"本が好き!"と公言する方たちによるブックレビューです。
毎回テーマを決めて、思い浮かんだ小説や漫画、絵本、地図のほか
新刊・既刊を問わずオススメの本を紹介し、本を通じて"より楽しくなる日常"をお届けします。

第3回

とにかく笑える本を集めました!

木幡宏美さん(パルコブックセンター吉祥寺店 文芸書など担当)

最近思い切り笑ったのはいつですか?家族がTVのバラエティ番組を見て笑っているのにつられてしまったり、上司のダジャレに引きつった笑いで応えたり……じゃない、本気の笑い。日常では味わえない笑いがあふれ出すストーリーを探すために書店員さんに話を聞きました。

第3回の選書をお願いしたのは、パルコブックセンター吉祥寺店で6年目を迎えた木幡宏美さん。
吉祥寺は作家やミュージシャンが多く住む街です。同店の特徴は、ベストセラーだけでなく、例えば最近なら星野源さんなど音楽に造詣の深い著者の本がよく売れたりします。また、作家さん自らが新作を携え書店を訪れることもあり、そのぶん、意外な本との出会いも増えたと明かします。

売り場に立つと、日々さまざまな問い合わせを受ける木幡さんですが、よくあるのは「面白い本を探している」という相談。そんな時、木幡さんは、どんなイメージの本を読みたいのかをじっくり聞き、相談者の気分に合わせた本を紹介する努力を続けています。

大阪的

書籍情報

津村記久子、江弘毅 著『大阪的』ミシマ社(1080円/税込)

「面白さや笑いって読む方によって異なります。ですので、どんな笑いを求めていらっしゃるのかを時間の許す限りうかがいます。そんな中、最近お勧めしてご購入いただいたのがこの『大阪的』です。大阪出身の作家さんと編集者による対談とエッセイが収録されています。大阪の人から見た大阪の姿を、ちょっと自虐的に紹介しています。実際、私は電車の中で読みながらプッと笑ってしまった本です」

すべて大阪弁で書かれている異色作ですが、大阪になじみのない方でも、そのあけっぴろげさに感化され、笑いを誘うつくりになっています。

「イントネーションが分からずとも、雰囲気で読めるので安心してください。そして、読み進むうちに腹の底に笑いが蓄積される不思議な魅力を楽しんでいただけると思います。気付けばクックッ、ケタケタと笑っているでしょう」

異類婚姻譚

書籍情報

本谷有希子 著『異類婚姻譚』講談社(1404円/税込)

梅雨のジメジメっぷりに嫌気が差している方には、毒をもって毒を制すのノリで、ブラックな笑いはいかがでしょうか。

「2015年下半期の芥川賞を受賞した代表作『異類婚姻譚』(いるいこんいんたん)は、結婚して少し時間が過ぎた夫婦のお話です。結婚によって人と人が結び付き、影響を受けることで、自分らしさが消えていく。また、旦那さまがドンドンだらしなくなっていく様子が丁寧に描かれています。え?そんなことまで……と突っ込みたくなるようなダメダメ感がブラックな笑いを生み、頭の中で増幅されていきます。著者の本谷さんは女性誌にも登場するような美人で、2013年に結婚されたばかりなんですよね。そういうことを踏まえて読むと興味もそそられます」

本谷作品はテーマ性が高く難解な言葉で論評されますが、文章そのものは流れるように読めることもあり、人気があることでも知られています。キレイな女性が描く、日常を非日常に変える作品をお楽しみください。

ゴージャスなナポリタン

書籍情報

丸山浮草 著『ゴージャスなナポリタン』産業編集センター(1296円/税込)

もし、いつもの生活がある日ガラッと変わったら……と妄想したことがあるなら笑える1冊です。タイトルにある"ナポリタン"は、平凡さや普段通りの象徴として描かれています。合わせる食材でゴージャスにも懐かしい料理にもなる――そんなお話です。

主人公は、40歳を過ぎた独身の「ともふささん」です。彼女はいるけれど親と同居。デザイン会社でコピーライターとして働く彼の平凡な毎日に突如変化が訪れ、物語が加速していきます。

「文体が軽やかで読みやすく、40代男性の頭の中の混乱、願望、妄想、ご都合主義なんかも楽しめるのがポイントです。私のお気に入りは音楽に関する描写。ある飲み会で「どんな音楽が好き?」と聞かれた女性がスラスラと嘘をつくんですね。音楽用語がポンポン出てくるのですが、そのマニアックさとは裏腹に関連性がデタラメで、音楽を知っていればあり得ない説明に思わず笑ってしまいます。全体を通して、料理や食事、飲み会など「食」にまつわる情景描写とともに登場人物の心理描写が上手すぎて、お腹も満たされます」

レビューを寄稿したアラフォー読者たちの「無性にナポリタンを食べたくなった」というコメントには思わず納得!中には、自分自身と重なる部分が多くて泣けたという読者もいらっしゃいます。

Profile

選者:木幡宏美(こはた・ひろみ)さん

選者:木幡宏美(こわた・ひろみ)さん

パルコブックセンター吉祥寺店 文芸書など担当

事務の仕事から書店のパートを経て、書店員に。作家・町田康さんに会いたいと切に願いつつ、店内では文芸書からパソコン書までを幅広く担当。来店されたお客さま(本読みのベテラン)からの信頼が厚く、ついつい立ち話に花が咲くという。目に飛び込んでくる本を選びがち。吉祥寺周辺でピンポイントに売れる作品を発掘するのが好き。

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