カテエネ・ライブラリー

"本が好き!"と公言する方たちによるブックレビューです。
毎回テーマを決めて、思い浮かんだ小説や漫画、絵本、地図のほか
新刊・既刊を問わずオススメの本を紹介し、本を通じて"より楽しくなる日常"をお届けします。

第6回

遠くに行きたい!

川田正和さん(旅の本屋 のまど 店長)

夏の休暇はどこかに旅行しましたか?楽しい旅行に行けた羨ましい方も行けなかった方も、毎日忙しく過ごしている中でふと「遠くに行きたい……」と旅情を募らせることもありますよね。今回はそんな気分を満たしてくれる素敵な3冊をご紹介します。

選書をお願いしたのは東京・西荻窪の旅をテーマにした専門書店『旅の本屋 のまど』店長の川田正和さん。

「旅行に行ったときに興味を持ったり、旅情を感じたりするポイントは人によって違います。ですから、一見すると旅と直接的なつながりがなさそうな本でも、それがきっかけになって旅に出てみたいと思うことは意外と多いんですよ。さまざまなポイントから旅に対する新たな興味や好奇心を感じさせる場でありたいと思って幅広い本を置くようにしています」

そう話す川田正和さんは、もちろん旅行好きで本が大好き。これまでに40~50カ国を旅してきました。欧米では文化として定着している「旅の本屋」にいたるところで出合い、「自分もこんな店を日本でもやりたい」と思うようになり「旅の本屋」を開く夢を持ったといいます。

「うちの店で見つけた本をきっかけに実際に旅に行ったという方の話を聞くと、『店をやっていてよかったな』とすごくうれしくなります。最近は昔に比べて、とくに若い人たちが旅行に行くことが減っているように感じます。旅に出ることでマイナスになることはありません。旅先での出会いやトラブルを自力で切り抜ける経験なんかは、旅の醍醐味で一生ものの価値があると僕は思っています。ぜひ多くの若い方々に旅に出てほしいですね」

そんな川田さんが「遠くに行きたい」をテーマにセレクトした3冊がこちらです。

翻訳できない世界のことば

書籍情報

エラ・フランシス・サンダース 著/前田まゆみ 翻訳『翻訳できない世界のことば』 創元社(1728円/税込)

海外旅行の壁といえば言葉や習慣の違いですね。『翻訳できない世界のことば』は、言葉の難しさと魅力を紹介している本です。

「世界各地のさまざまな言語には、うまくニュアンスまで一語の日本語に翻訳できない言葉がいくつもあります。日本語の"忖度(そんたく)"なんかも簡単に外国語に翻訳できない言葉かもしれませんね(笑)。この本は世界中のそんな言葉を集めた1冊です。読んでいくと、世界の人たちがそれぞれいろんな感覚や気持ち、スタイルを持って生きていることが分かります。言葉を通じて、見知らぬ遠い国の人と出会えるような感覚にさせてくれる本ですよ」

例えば"恋がさめ、ほろにがい気持ちになる"ことをロシア語では「ラズリュビッチ」という一語の動詞で表現するそうです。日本語もいくつか紹介されています。

「装丁やそれぞれの言葉に添えられているイラスト、デザインもとても凝っていて、プレゼント用に購入される方も多いですね。うちの店は書店がちょっとしたブームになっている台湾や韓国からのお客様も多いのですが、そんな海外の方からも人気です」

女一匹シルクロードの旅

書籍情報

織田博子 著『女一匹シルクロードの旅』 イースト・プレス(1296円/税込)

旅の面白さにはまるのは、案外、一人旅だったりするもの。『女一匹シルクロードの旅』は、女性の一人旅をつづったコミックエッセイで、「旅あるある」満載の一冊です。

「タイトルからも分かるように、織田さんが、西安から、新疆(しんきょう)ウルムチ、カザフスタン、ウズベキスタン、トルコまで、シルクロードを、長距離バスを乗り継いだ1人旅を描いています。旅先で起こるさまざまな出来事やそこで感じる気持ちの動きが上手に表現されていて、読んでいて本当に旅行をしているような気分になれる1冊です。マンガだから"絵"で現地の様子が見ることができるのもうれしいポイントですね」

「著者の織田さんは本書の前に『女一匹シベリア鉄道の旅』という著書もあり、とても旅慣れた人。そんな織田さんがマンガで綴るリアルな旅情をぜひ味わってみてください」

MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー

書籍情報

サラーム海上著『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』 LD&K BOOKS(1728円/税込)

普段と違う食文化に触れると、日常とは違う気持ちに満たされます。レシピ本『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』は、食で中東を感じられます。レシピも手軽に作れる料理が多いのも、うれしいポイント。

「各国料理のレシピ本は安定した売れ筋ジャンルなのですが、中東料理がテーマのものはあまりありません。"メイハネ"とはトルコ語で"居酒屋"という意味です。旅先での食事は旅行の大きな楽しみの1つです。現在、中東近辺はなかなか旅行もしづらい状況ですが、本書を参考にして自分で作れば中東料理が自宅でも楽しめます。その本格的な味わいはきっと"遠くに行きたい"という気持ちを満たしてくれるでしょう。レシピ以外にも現地の文化や音楽、食材などを紹介してくれるコラムも充実しています。中東全般に興味がある人ならすごく楽しめる1冊です」

本書で紹介されているのは、トルコ、レバノン、モロッコ、イスラエルから集めた55品のレシピ。色鮮やかな中東料理は見た目も美しく、ページをめくっているだけでもエキゾチックな雰囲気が堪能できます。

Profile

選者:川田正和(かわた・まさかず)さん

選者:川田正和(かわた・まさかず)さん

旅の本屋 のまど 店長

大学卒業後に就職した出版社を3カ月で退職。「本と旅行が好き」という自分を生かせる仕事を模索し、「旅の本屋」の開業が目標となる。大手書店チェーンで書店員として約8年間の経験を積んだ後、吉祥寺の「旅の本屋のまど」店長に就任。前オーナーの後を継ぎ、場所を西荻窪に移転してリニューアル営業を始めて今年が10周年目となる。

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