カテエネ・ライブラリー

"本が好き!"と公言する方たちによるブックレビューです。
毎回テーマを決めて、思い浮かんだ小説や漫画、絵本、地図のほか
新刊・既刊を問わずオススメの本を紹介し、本を通じて"より楽しくなる日常"をお届けします。

第5回

ゾクッとしたり、感動したり、夏こそスカッとしたい!

内田俊明さん(八重洲ブックセンター本店 商品企画部/文芸担当)

暑くてジメジメした日が続き、夏バテ気味でもうウンザリ……なんて人も多いのではないでしょうか。読書はそんな疲れた気持ちをスカッと吹き飛ばすのにも役立ちます。今回は暑さを忘れる怖~いホラーと、爽やかな感動で心を潤してくれるスポーツ小説をご紹介!

八重洲ブックセンター本店の文芸担当としてXで情報を発信し、それを読んだ作家から文庫の"あとがき執筆"を依頼されることも多い内田俊明さん。本の目利きとしても知られていて、内田さんがイチオシする本はロングセラーになることが多いそうです。そのポイントは「ただ面白いというだけではなく、何か響くものがあるんですね。ジャンルに関係なく、その感覚を大切にしています」とのこと。

お客さまの相談に乗るときは、読書歴や趣味嗜好、どんな本を読みたいのかという要望をしっかり把握してから選書することを第一に考えていると言います。そんな内田さんがセレクトしてくれた「スカッとしたい!」ときにオススメの3冊がこちらです。

蜜姫村

書籍情報

乾ルカ 著『蜜姫村』角川春樹事務所(741円/税込)

ホラーなのに暗い結末にならず読後感が良い作品です。おどろおどろしい描写こそありますが、結末が爽やかでスカッとした気持ちになれる1冊です。

「『密姫村』は2部構成になっていて、第1部は1960年代。第2部は1970年代で、昭和中期の設定です。変種のアリを追って東北の山村に迷い込んだ昆虫学者の一郎は、ケガをして村の人たちに救われます。その翌年、妻で医師の和子と一緒に1年間のフィールドワークを行うため再訪します。無医村なのですが、村人たちは誰も和子の健康診断や診察を受けようとしません。やがて、和子は不思議な力で村を支配する一族の存在を知ります。実はその一族は痛みを吸い取ることができる能力を持っています。鳥肌が立ってしまうのは病気を治す描写のくだり。痛みを吸い取られた村人たちはどんな手術にも耐えられます。思わず寒気を覚えました。

第2部の舞台となるのは1970年代。ホラー色を受け継ぎながら、悲恋と駆け落ちの物語へと移っていきます。一族に仕えてきた家系の青年と和子の娘が主人公。都会で隠れて暮らす2人に追手がかかります。サスペンスフルな展開にハラハラしつつ、その不気味な一族が単なる怪物や悪役としてではなく何のために存在してきたのかが明かされます。ホラーでは切り捨てられがちなヒューマニズムがしっかりと描かれていて、希望のある爽やかなラストが待っています」

怪物

書籍情報

福田和代 著『怪物』集英社文庫(756円/税込)

続いては、意外なラストに驚く1冊。佐藤浩市、向井理、多部未華子という豪華キャストでTVドラマ化もされている長編作品です。グロテスクな描写はなく、心理的な怖さ、不気味さに加え、登場人物による攻防戦に、ハラハラドキドキしつつ、驚きのラストへと加速していきます。

「これから死ぬ人間が分かるという特殊な能力を持った定年間近の刑事・香西が、その能力を生かして不審な失踪事件を追ううちに、ごみ処理施設で働く青年・真崎にたどり着きます。『人間の体くらい溶かせる』と話す真崎。施設に入って死の臭いを感じた香西は、とうとう恐ろしい秘密をつかみます。そんな中、あることをきっかけに、香西は正義の象徴ともいうべき刑事から怪物側へと転落してしまいます。怪物・香西が怪物・真崎を追う展開へと物語は転じていくのです。死の臭いが分かるという香西の能力が面白く、不気味さや猜疑心といった日常を揺るがす感情が膨らみ続けるのを感じながら、驚きのラストを迎えることができます」

風が吹いたり、花が散ったり

書籍情報

朝倉宏景 著『風が吹いたり、花が散ったり』講談社(1458円/税込)

最後は、スポーツを題材にした小説から。デビューから3冊の野球小説を書いてきた著者が、新たなスポーツを題材に執筆した1冊です。

「季節ごとにイチオシ作品を発表する"Yaesu Book choice"賞の文芸書担当をしているのですが、今夏の受賞作としたのが、この『風が吹いたり、花が散ったり』です。

本作の主人公の亮磨(りょうま)は、人に言えない過去があり、すぐ逃げ出してしまうところがある青年。そんな彼が目の不自由な女性・さちと出会い、彼女が出場するフルマラソンの伴走ガイドをすることになります。盲人マラソンの過酷なトレーニング、さまざまなトラブルや葛藤をなんとか乗り越えて、亮磨はひたむきに走り続けます。

亮磨は逃げ癖があり、さちは障害者です。想像するだけで心配になる2人ですが、読後感は、こんなにも人は輝くことができるんだという気付きがあり、その輝きを得るためにもがく2人の姿には尊さすら感じます。スポーツを題材にした人間ドラマがしっかり描かれています。本を閉じた後の爽快感をぜひ感じてください」

Profile

選者:内田俊明(うちだ・としあき)さん

選者:内田俊明(うちだ・としあき)さん

八重洲ブックセンター本店 商品企画部

1991年、大学卒業後に八重洲ブックセンターに就職。文芸担当のベテラン書店員として知られ、貫井徳郎、樋口毅宏、中路啓太など、多くの作家の作品で文庫化に際して解説を執筆。現在は商品企画部でイベント関連の仕事を主に担当。

8月の家電コラムでは『ホラーを見ると本当に涼しく過ごせるのか?』を実験しています。こちらもご覧ください。

あなたの契約
まってるニャ

新規ご加入のお客さま

引越し
開始手続き

他社からの
切替え