カテエネ・ライブラリー
"本が好き!"と公言する方たちによるブックレビューです。
毎回テーマを決めて、思い浮かんだ小説や漫画、絵本、地図のほか
新刊・既刊を問わずオススメの本を紹介し、本を通じて"より楽しくなる日常"をお届けします。
感謝を伝えたい

松本泰尭さん(二子玉川蔦屋家電 BOOKコンシェルジュ(人文担当))
とうとう2017年も師走を迎えました。クリスマスや年末年始には、お世話になった方々に感謝の気持ちを込めた贈り物をしてみてはいかがでしょうか。今回は「感謝を伝えたい」をテーマにした選書です。プレゼントとしても使えそうな3冊ですよ。
選書をお願いしたのは、二子玉川蔦屋家電で人文書を担当するBOOKコンシェルジュの松本さん。
同店は、さまざまなライフスタイルを提案するというコンセプトのもと、15万冊を超える本や雑誌のほか、最新テクノロジーからヴィンテージものまで各種家電を取りそろえた人気店です。テレビのランキング番組などでもたびたび登場します。このほか、おしゃれで実用的な雑貨やインテリアが数多くあり、ゆっくりくつろげるカフェも併設されています。
「雑貨や家電に本を組み合わせてプレゼントするお客様も多いですよ。お客様の想像力をかきたてるのが私たちの使命。蔦屋家電ならではの立体的なアプローチを日々考えています」
この店でしかできないことをいかに実践していくかを常に念頭に選書や棚づくりに励んでいるという松本さんが選んだ3冊はこちらです。
1冊目は、短編小説の名手として知られる19世紀アメリカの作家O・ヘンリーの傑作選。表題作『賢者の贈りもの』は知っているという方も多いでしょう。大人になってから改めて読むと、また別の観点からの気づきがあり、そして誰かを思って読むにはこの季節がオススメです。
「クリスマスの日、お金に困っていながらも互いを愛し合う夫婦がプレゼントを贈り合うお話です。妻は自慢の美しく長い髪を売って、夫の宝物である金時計に合うプラチナの鎖を買うのですが……。その結末は皮肉的ですが、お互いを思う夫婦の愛情の素晴らしさが伝わって、思わず心が温まる古典的名作です。"クリスマスのプレゼント"というモチーフも、大切な人へ感謝を伝えるための『贈る物語』にぴったりではないでしょうか」
本書には人生の悲喜劇をユーモアとペーソス豊かに描いた全16編が収録されています。
「O・ヘンリーの作品はどれも人間の心の機微が上手に描かれていて、悲しいお話でも人間の持つ温かい心情が見えてきます。短くて読みやすいところもプレゼント向き。きっと誰でも"自分の好きな作品"が見つかると思うので、プレゼントをした後、読後の会話も弾むと思います」
2冊目は『古典落語』。本書には古典落語の名作21編が、しゃべり口調を活かした口語体で収録されています。この本を選んだ松本さんの視点は本好きだからこそです。
「『賢者の贈りもの』の舞台はアメリカでしたが、日本の夫婦の物語だとどうなるんだろう……と考えたときに思いついたのが古典落語の『芝浜』でした」
『芝浜』は、腕はいいのに酒で身を持ち崩した魚屋・勝五郎とその妻の愛情を描いた人情噺です。師走の早朝、妻に叩き起こされて久しぶりに芝の浜に出てきた勝五郎は、波打ち際で大金が入った財布を拾います。大喜びで家に帰った勝五郎は大酒を飲んで大豪遊。ところが、再び妻に叩き起こされて目を覚ますと「夢でも見てたんじゃないか」と言われて……。
「噺のクライマックスは大晦日。お互いに感謝を伝え合う夫婦の姿にホロリとさせられます。同じ夫婦の感謝の物語として『賢者の贈りもの』と読み比べてみても面白いのではないでしょうか。人と人とのやりとりの面白さ、人情味があって味わい深い落語は世代を問わず楽しめるものだと思いますし、落語に詳しくない人にも入門書として最適です」
本だけでなく、どんな贈り物も"日米"や"陰陽""白黒"などセットで贈るのはテクニックの一つです。工夫していることが伝わると受け取った方の喜びも少しアップしそうです。
3冊目の『世界は終わらない』は、松本さんにとって個人的な思い入れの深い本です。前職の広告代理店を退職し、書店員への転職を決意した際に、同僚から贈られた本だそうです。
「自分が本屋で働くことを知って、わざわざこの本を選んでくれたんだということに、とてもうれしく感じました。もちろんそんな個人的な体験を抜きにしても、これはオススメの本。単調に思える日々の仕事の中にあるちょっとした喜びや、見落としがちな小さな幸せが描かれていて『こういうことってあるよ』と共感できます。毎日一生懸命に働いているすべての人に贈りたい1冊です」
本書の主人公は松本さんと同じ書店員。毎日コツコツと仕事をしながら、仕事に対する姿勢、結婚や将来、人生の移り変わりと幸せについて、いろいろな考えを巡らせていく姿が4コマ漫画で描かれています。

選者:松本泰尭(まつもと・やすたか)さん
二子玉川蔦屋家電 BOOKコンシェルジュ(人文担当)
大学卒業後、広告代理店に勤務。メディア系の仕事でキャリアを積みながら「ずっと好きだった本を使った表現がしてみたい」という思いから転職を決意。2015年の二子玉川蔦屋家電オープン時から、BOOKコンシェルジュとして人文書の選書と棚作りに励む日々。「ずっとやりたかった仕事をしているという実感があります。こだわった分、お客様の反応がいいとやっぱりうれしいですね」と、優し気に微笑む。