カテエネ・ライブラリー

"本が好き!"と公言する方たちによるブックレビューです。
毎回テーマを決めて、思い浮かんだ小説や漫画、絵本、地図のほか
新刊・既刊を問わずオススメの本を紹介し、本を通じて"より楽しくなる日常"をお届けします。

第10回

"おいしい"を手のひらに

新井見枝香さん(三省堂書店神保町本店 文庫担当)

本好きの方なら、読書でも"おいしさ"を味わえることをご存じでしょう。本を読みながら、思わず「おいしそう!」「これ食べたい!」なんて反応をしてしまったことがある人はきっと多いはず。そこで、今回のテーマは「"おいしい"を手のひらに」。本を広げた手のひらから味覚や嗅覚を刺激する"おいしさ"があふれてくる3冊を紹介します。

今回、選書をお願いしたのは三省堂書店神保町本店の新井見枝香さん。自らとっておきのオススメ本に「新井賞」を贈ったり、作家とのトークイベント「新井ナイト」などを企画し、大好きな本を紹介するための多彩な活動を積極的に続けています。

新井さんは文庫をメインに担当されていますが、食べることや食べ物にまつわる本も大好物で、今回の選書もお引き受けいただきました。そんな彼女がセレクトした3冊がこちらです。

エッグマン

書籍情報

辻仁成 著/『エッグマン』/朝日新聞出版/1728円(税込)

1冊目は、読んでいるだけで幸せな気持ちになれる"おいしい"小説です。
シングルファーザーとして、息子に作ってきた料理やお弁当を公開したレシピブックが話題になった作家・辻仁成さんの新作小説です。元料理人の主人公・サトジが長年思い続けているシングルマザーとその一人娘のために作る、とてもおいしそうな玉子料理の描写は、読んでいるだけで悩みを吹き飛ばし、人を幸せな気持ちにしてくれます。
「玉子料理って"幸せの象徴"みたいなところがありますよね。主人公のサトジは何か特別な力を持ったヒーローではありません。人が悲しんでいたり、悩んでいたりするときに、ただおいしい玉子料理を作って食べさせてあげるだけなんです。だけど、それだけでも人は救われるんですよね。それって最強の救い方だと思いませんか? 読んでいくうちに誰でもサトジのことをすごく好きになるはずです」

TKG(たまごかけご飯)、ホワイトオムライス、親子丼、ティラミス、卵焼きなど、次々に登場する玉子料理たちに読者の心もきっと満たされていくことでしょう。

たべたいの

書籍情報

壇蜜 著/『たべたいの』/新潮新書(778円/税込)

2冊目は、タレントの壇蜜さんが語る「食べ物と私の関係」。ユーモラスな語り口の"壇蜜ワールド"に思わず引き込まれます。

「壇蜜さんはグラビアなどで見せるセクシーなイメージを持っている方も多いかと思いますが、実は文章がとても上手で、直木賞作家の桜木紫乃さんも彼女のファンだと公言しているほどなんです。この本も食べ物をテーマにしたエッセイにありがちな『よだれが出ちゃう!』とか、『たまらないおいしさ』といった表現は全然なくて、壇蜜さん独特の視点から食べ物にまつわるユニークなエピソードがたっぷり語られています」

題材になっているのは、納豆、ふりかけ、カレー、ハチミツレモン、リンゴ飴、魚肉ソーセージ、駄菓子、クレープ、ココアなど、実に多彩で身近な食べ物。壇蜜さん自作の俳句と自筆のイラストも合わせて掲載されています。

「トーストにマーガリンを塗っているCMを実際にやってみて、『さすがにつけすぎだと思った』とか、"壇蜜チョコクッキー"の商品化の妄想とか、壇蜜さんってこんなこと考えているんだという意外性がすごく面白いです。壇蜜さんと同世代なら、彼女の食べ物の思い出話に共感できることがいっぱいあるはず。女性ファンも多くて、実際によく売れている一冊です」

壇蜜さんと一緒に、身近な食について語り合ったような読後感を得られるかもしれませんね。

ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや

書籍情報

坂井希久子 著/『ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや』/ハルキ文庫(626円/税込)

3冊目は、普段、時代小説を読まない人も手に取りやすい1冊です。ひと手間やちょっとした工夫が加えられたおつまみや惣菜料理が続々と登場する時代小説シリーズの第1作。ホッと一息つけるようなおいしさと癒やしに満たされた時代小説です。

「実は苦手意識があって、私は時代小説をほとんど読んだことがないんです。それでも高田郁さんの『みをつくし料理帖』シリーズだけは大好きだったので、似たようなテイストの時代小説はないかと探していたときに見つけたのが、この作品です」

主人公は、うぐいすの飼育を生業(なりわい)にする武家の次男坊・只次郎と、彼が一目惚れした居酒屋ぜんやの美人女将・お妙の二人。さまざまな悩みや問題を抱えた客たちが、未亡人ながら笑顔を絶やさないお妙の素朴な絶品料理に癒やされていきます。

「出てくるのは庶民的な料理ばかりですが、細かいところまで作り方が丁寧に描写されていて、とにかくおいしそうなんです(笑)。思わず自分でも作ってみたくなると思いますよ。小説に出てきた料理の再現は背景に"物語"があるから作っていて楽しいし、よりおいしく感じられるんですよね。このシリーズは3作目まで刊行されていて、まだまだ続く予定と聞いています。居酒屋ぜんやのおいしい空間に浸ってみたいという方はぜひ! 時代小説をあまり読まないという若い方や女性でもきっと楽しめますよ」

物語に出てきた料理を実際に再現して作ってみるお楽しみもあるのが、"おいしい読書"の醍醐味のひとつです。

Profile

選者:新井見枝香(あらい・みえか)さん

選者:新井見枝香(あらい・みえか)さん

三省堂書店神保町本店 文庫担当

10年ほど前、行きつけの本屋だった三省堂書店有楽町店で「アルバイト募集」の告知を見かけ、応募したことがきっかけで書店員に。約1年間の営業企画室勤務を経て、最近、神保町本店の売り場に異動。接客を大切にする現場主義で、「自分が好きな本を人におすすめするのはすごく楽しいし、気合も入って腕が鳴りますね(笑)」と笑う。

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