地元の人たちに愛され、親しまれている食材をテーマに中部5県下をめぐり、その魅力をご紹介します。
※「農食」とは、新鮮な農産物をその土地で食べることを意味する造語です。
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第21回
長野県坂城町の「ねずみ大根」を訪ねて
長野県坂城町(さかきまち)は四方を山に囲まれた盆地で、中央に千曲川が流れる自然豊かな町です。この地で栽培されているのは、信州の伝統野菜「ねずみ大根」。下膨れの短い身に、ひょろりと伸びたしっぽのような根。その名の通り、ねずみのような姿をしています。
大根おろしにすると、ピリリとした辛みの後に甘みが広がる独特の味わいがあり、地元の特産品として愛されています。今回は坂城町で「ねずみ大根」を栽培している小宮山和衛(こみやまかずえ)さんを訪ねました。
(注)2015年11月に取材をおこないました。
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ピリリとした辛みがくせになる「ねずみ大根」
下膨れの短い身にしっぽがひょろり
おだやかな秋晴れの日、青々とした「ねずみ大根」の畑は収穫期を迎えていました。葉の根元を持って引き抜くと、短い下膨れの大根が現れました。おしりからひょろりと伸びた根は、まさにねずみのしっぽそのもの。身の部分が短いため、さほど力を入れなくても、ぽこぽこと面白いように土から抜くことができます。
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「ねずみ大根」の畑。かつて坂城町の中之条地区を中心に栽培されたことから、地元では「なかんじょ(中之条)大根」とも呼ばれます。水菜とよく似た細い切れ葉が特徴。
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「ねずみ大根」の肉質は緻密で硬いため、汁が少なく、舌ざわりがなめらか。漬け物のほか、大根おろしにして、そばの薬味としても親しまれています。
栽培には、小石混じりの荒れた土地が最適
畑の土を見ると、ころころとした小石や砂利がたくさん混じっています。坂城町は年間降水量が非常に少なく(注)、本来、野菜の栽培にはあまり適さないのですが、「ねずみ大根」はこうした雨の少ないところを好み、他の土地で栽培しても、本来の辛みは出ないといわれています。
(注)坂城町の年間降水量は800mm程度。全国で最も雨の少ない長野県の933mmよりさらに少なくない(気象庁/都道府県庁所在地の降水量平年値より)
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身を傷つけないよう、収穫はすべて手作業でおこないます。
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小宮山さんが作った自信作の「ねずみ大根」。洗うと白さが際立ちます。
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石がごろごろとある畑。昔から「ねずみ大根」の栽培には、くわで耕すと火花が出るほど小石が混じった土がいいとされています。
「あまもっくら(注)」な辛みと甘み
「ねずみ大根」は、種まきから収穫までの期間が約2ヶ月と生長が早く、水やりもほとんど必要なく育てやすい野菜です。収穫は、気温が下がって「ねずみ大根」が内部にでんぷん質を蓄え始める11月からおこないます。霜が数回降りる12月上旬には地元で「あまもっくら」と表現される独特の辛みと甘みがより強くなります。
「9月初めの種まきから収穫までの期間が短いため、栽培に加えた工夫の成果がすぐわかる。そこがおもしろい」と小宮山さんはにこにこと話してくれました。
(注)「あまもっくら」…ねずみ大根独特の味わい(辛みの後から感じるほのかな甘さ)を表した地元の方言。
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ご案内いただいた小宮山和衛さん(左)と、「坂城町役場」の小河原秀昭(おがわらひであき)(右)さん。坂城町マスコットキャラクター「ねずこん」(中央)も遊びにきてくれました!
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収穫されたねずみ大根を並べてパチリ。よく見ると、形にそれぞれ特徴があります。
「ねずみ大根」を味わえる、地域の伝統食「おしぼりうどん」
ほっこりとした雰囲気の中でくつろげる「かいぜ」
上信越自動車道「坂城IC」から3分ほど走った小高い丘の上に、「ねずみ大根」の伝統食を味わえる「かいぜ」があります。軒先に干し柿を吊るした民家風のお店は、店内から柿やリンゴの木が植えられた庭を眺められ、ほっとする雰囲気。女将の片山しさ子さんが笑顔で迎えてくれました。
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民家風の素朴でなつかしい雰囲気の「かいぜ」。
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2人で仲良く店を切り盛りする、女将の片山さん(左)とお嫁さんの千春さん(右)。
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提供するうどんとそばは、毎日心を込めて手打ちしたもの。
これが「あまもっくら」!絶妙な辛みと甘みが楽しめるうどん
名物の「おしぼりうどん(1,000円税抜)」は、「ねずみ大根」をすりおろしてしぼった汁に、調味味噌を好みでとき、薬味のかつお節やネギを入れ、釜揚げのうどんをつけて食べる坂城町の名物です。口に入れた瞬間、「ねずみ大根」独特の辛みが広がりますが、すぐに何ともいえない甘みが味噌と相まって、マイルドな味わいへと変化。一度食べたら納得の「あまもっくら」な味わいです。
「かいぜ」では手打ちうどんと十割そばのセットが人気。ゆでたてのコシを楽しめるよう、それぞれの仕上がり時間をあえてずらし、一番美味しい状態で出してくれます。
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長野県坂城町の名物「おしぼりうどん」。「ねずみ大根」をすりおろしてしぼった汁にたっぷりつけていただきます。
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十割そばは、つゆにしぼり汁を入れるのが坂城流の食し方です。
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十割そばとうどんの両方をいただける、人気メニューの「わがままセット(1,000円税抜)」。
「ねずみ大根」や加工品が豊富に揃う「びんぐし亭」と「あいさい」
坂城町のお母さんたちが大活躍!おみやげもランチも「びんぐし亭」
上信越自動車道「坂城IC」から約10分の「びんぐしの里公園」は、美しい自然と触れ合える公園です。園内を歩くと、ひと際目を引くログハウス「びんぐし亭」を見つけました。
「びんぐし亭」は、坂城町のお母さんたちが立ち上げた食堂兼売店で、「おしぼり手打ちうどん(760円税込)」を提供する他、土曜と日曜は食べ放題のランチバイキング(大人1,300円税込)も人気です。
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「びんぐしの里公園」内にある、ログハウスが「びんぐし亭」です。
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「びんぐし亭」でおみやげに加工される「ねずみ大根」は、「味ロッジ株式会社」で働くお母さんたちの手作り!
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ここでも「ねずこん」発見!
お菓子にドレッシング!買って喜ばれる「ねずみ大根」のおみやげいろいろ!
「びんぐし亭」の売店には、「ねずみ大根」を使ったおみやげが揃っています。大根は切り干し大根やたくあんなどが一般的ですが、「びんぐし亭」では、「ねずみ大根」をドレッシングやパウンドケーキなど、幅広い商品の素材として活用しています。
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「ねずみ大根」の辛みをいかした人気のドレッシング「おばちゃん手づくり大根おろし(300ml 590円税抜)」。
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たくさんの野菜が使われた、ヘルシーな「パウンドケーキ(1本1,060円税抜)」。
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「ねずみ大根」を漬け物にした「さかき漬(430円税抜)」。ぽりぽりとした食感がくせになります。
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おしぼりうどんが自宅で食べられる、「おしぼりうどんセット(2,800円税抜~)」。
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アクセス&インフォメーション 「びんぐし亭(びんぐしの里公園内)」
長野県埴科郡坂城町大字網掛3000 Tel:0268-82-0567
営業時間 売店:9時~17時 年末年始休み 食堂:11時~14時半(オーダー終了は14時) 定休日 水曜
■車でのアクセス 上信越自動車道「坂城IC」から約10分
■電車でのアクセス しなの鉄道「坂城駅」からタクシーで約10分
電話でおみやげの注文が可能です。詳しくは店舗までお問い合わせください。
地元の新鮮野菜が並ぶ、地場産直売所「あいさい」
地場産直売所「あいさい」は、近隣の農家さんから持ち込まれた「ねずみ大根」をはじめ、さまざまな新鮮野菜や果物、加工品が揃う直売所です。
店内には飲食コーナーがあり、ランチタイムには「おしぼりうどん(680円税込)」も提供しています。
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国道18号沿いにあってわかりやすい、地場産直売所「あいさい」。
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「ねずみ大根」がもっとも豊富な時期は、11月~1月ごろまで。
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ランチタイム(11時~14時)はお客さまで混み合う飲食コーナー。
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アクセス&インフォメーション 地場産直売所「あいさい」
長野県埴科郡坂城町大字中之条56-7 Tel:0268-75-8267 Fax:0268-75-8268
営業時間 8時30分~17時 (注)冬期(11月~4月)は8時30分~16時
定休日 1月1日~5日(その他臨時休業あり)
■車でのアクセス 上信越自動車道「坂城IC」から約5分
■電車でのアクセス しなの鉄道「テクノさかき駅」から徒歩約10分
電話・Faxで「ねずみ大根(10kg以上~)」の注文が可能です。詳しくは店舗までお問い合わせください。
壮大な景色が楽しめる
「千曲市城山史跡公園(ちくましじょうやましせきこうえん)」
戦国時代の城跡が歴史を感じさせる公園
上信越自動車道「坂城IC」から車で20分ほど走ると、荒砥城(あらとじょう)跡地に作られた「千曲市城山史跡公園」があります。
約400年前に築城された荒砥城の本郭は標高約590mと高い場所にありました。
現在は館や兵舎、門、櫓(やぐら)が再現され、眼下に流れる千曲川をはじめ、四方にそびえる北アルプスや戸隠山などの壮大な景色を楽しむことができます。
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門や兵舎など当時の城内を再現した公園内。テレビドラマの撮影にも使われました。
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山頂近くにある櫓からの眺め。凛々しい山々や千曲川を一望できます。
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アクセス&インフォメーション 千曲市城山史跡公園
千曲市大字上山田字城山3509番地1 Tel:026-275-6653(城山史跡公園管理棟)
開門時間 9時~17時(入城は16時半まで) 定休日 12月29日~1月3日(年末年始)
入場料 高校生以上300円/人 中学生以下 無料 団体(20名以上)250円/人
■車でのアクセス 上信越自動車道「坂城IC」から約20分
■電車でのアクセス しなの鉄道「戸倉駅」からタクシーで約10分
今日はおうちで農食レストラン
通常の大根より小ぶりで辛みが強く、水分が少ない大根を辛み大根といい、長野県坂城町の特産「ねずみ大根」もその一種。辛み成分の他、カロテンやカリウムなどを豊富に含む、身体にうれしい食材です。辛みが味をぐんと引き立てる3品を紹介します。
蓮沼 あい
食品メーカーへのレシピ提供や撮影協力、広告・雑誌でのレシピ紹介をはじめ、飲食店のプロデュースや料理イベントまで幅広く手がけ、食育をテーマにしたテレビ番組にも出演中。
ウェブサイトhttp://ai-hasunuma.com
〈材料(2人分)〉
- 辛み大根 150g(約1/2本)
- うどん 2玉
- 卵 2個
- しょうゆ 適量
- 万能ねぎ 適量
- かつお節 適量
- すりごま 適量
- ゆずこしょう 適量
〈作り方〉
- 辛み大根はおろし器ですりおろし、水気を絞らずにおく(Point1)
- 熱湯でうどんを茹で、器に盛りつける。うどんが冷めないようにゆで汁も入れ、釜揚げうどんにする
- 別の器に、溶いた卵、1の辛み大根おろし、しょうゆを加える(Point2)。小口切りにした万能ねぎ、かつお節、すりごま、ゆずこしょうを添え、いろいろな味を楽しみながら、2をつけていただく
おいしく作るポイント
通常の大根より辛み大根は硬いため、力を入れてしっかりすりおろします。通常の大根を使うときは水気が多いので、しっかり絞るようにしましょう
溶いた卵に合わせることで、辛みにまろやかさが加わります
〈材料(2人分)〉
- 辛み大根 40g
- ブリ(刺身) 120g
- 塩 ふたつまみ
- オリーブオイル 大さじ1
- 万能ねぎ 適量
- すだち 1/2個
- しょうゆ 適宜
〈作り方〉
- ブリは厚さ2~3mmにスライスする。(Point1)辛み大根はおろし器ですりおろし、水気を絞らずにおく(Point2)。万能ねぎは小口切り、すだちはくし切りにする
- 器に1のブリをのせ、塩、オリーブオイルを全体にまわしかける
- 2の上に辛み大根おろしと万能ねぎをのせ、くし切りにしたすだちを添える。お好みでしょうゆをかける
おいしく作るポイント
ブリは、ひと切れが大きいほうが、薬味をのせやすく、美味しくいただけます
通常の大根を使うときは、水気が多いので、しっかり絞るようにしましょう
〈材料(2人分)〉
- 辛み大根 70g
- 辛み大根菜(または万能ねぎ) 20g
- 鶏もも肉 1枚(250~300g)
- 塩 ふたつまみ
- 片栗粉 適量
- しめじ 1/2房(50g)
- なめこ 50g
- 揚げ油
A
- だし汁 1/2カップ
- しょうゆ 大さじ1
- みりん 大さじ2
- 砂糖 小さじ2
- 片栗粉 小さじ1
〈作り方〉
- 辛み大根はおろし器ですりおろし、水気を絞らずにおく。辛み大根菜(または万能ねぎ)は塩(分量外)を入れた熱湯でさっと茹で、小口切りにする
- 鶏もも肉は一口大に切って塩をふり、よく揉み込む。片栗粉をたっぷりとまぶし、180℃に熱した少なめの油でしっかり揚げる(Point1)
- みぞれあんをつくる。鍋にAを合わせ、まぜながら温める。しめじ、なめこを加え、ひと煮立ちしたら、辛み大根おろしを加え、さっと火を通す(Point2)
- 揚げたての2を器に盛り、温めた3(みぞれあん)をかける。1の辛み大根菜(または万能ねぎ)を散らす
おいしく作るポイント
鶏もも肉の中まで火が通るよう、長めの時間で揚げて、カリッと仕上げます
野菜に含まれるビタミンCは、加熱すると外に溶け出してしまうので、辛味大根おろしを加えたら、さっと火を通す程度にします
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「ねずみ大根」1kgを5名さまにプレゼント!
締切日 12月14日(水)
長野県埴科郡坂城町大字中之条2366-3 Tel:0268-81-3595
営業時間 11時30分~14時(オーダー終了) 定休日 月曜、火曜
■車でのアクセス 上信越自動車道「坂城IC」から約3分
■電車でのアクセス しなの鉄道「坂城駅」からタクシーで約10分