地元の人たちに愛され、親しまれている食材をテーマに中部5県下をめぐり、その魅力をご紹介します。
※「農食」とは、新鮮な農産物をその土地で食べることを意味する造語です。
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第45回
三重県志摩市の「あのりふぐ」を訪ねて
「あのりふぐ」とは、伊勢湾を含む遠州灘から熊野灘にかけての海域で漁獲される、体重700g以上の天然トラフグのこと。安乗(あのり)漁港を中心に水揚げされることから、その名が付きました。「伊勢えび」「的矢(まとや)かき」と並ぶ、志摩市を代表する海の幸として、2008年には「三重ブランド」にも認定されています。今回は、安乗漁港の「三重外湾漁協志摩支所 安乗事業所」内にある「あのりふぐ協議会」を訪ねました。
(注)取材は2018年3月中旬におこないました
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安乗漁港で水揚げされる天然トラフグ「あのりふぐ」
「あのりふぐ」の漁は日の出とともに始まる
志摩市の北東端に位置し、的矢湾の入口に突き出した安乗岬。夜中の2時頃、漁師たちは「あのりふぐ」の魚場を目指して出漁し、日の出とともに漁は始まります。あらかじめ定められた場所で、底延縄(そこはえなわ)と呼ばれる漁具を海底に仕掛け、数時間後に巻き上げ作業へ。ゆっくり延縄を引き上げていくと、白い腹を膨らませた「あのりふぐ」が海面から姿を現します。一匹、また一匹と船上に釣り上げられた「あのりふぐ」は、船内のイケスに入れられます。
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穏やかな海が広がる安乗岬の漁港。「あのりふぐ」の漁師たちはここから出漁します。
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漁船をゆっくりと走らせながら、底延縄と呼ばれる漁具を海底に仕掛けていきます。
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巻き上げ作業によって、海面から姿を現した「あのりふぐ」。
帰港した漁船の船上で、仲買人たちが入札をおこなう
「あのりふぐ」には鋭い歯があり、イケスの中で噛み付き合うと、体が傷ついて真っ赤になることがあります。それを防ぐため、漁師たちは「あのりふぐ」を船上に引き上げるとすぐ、下あごを切って、鋭い歯を取り除きます。
さらに、「あのりふぐ」は触れたり移動させたりするだけでストレスがかかって身が美味しくなくなるため、船内のイケスに泳がせたまま、1隻ずつ船上で仲買人たちが入札をおこないます。こうすることで、漁港に水揚げして水槽に移すといった環境の変化を少なくし、できるだけストレスを与えないようにしています。
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「あのりふぐ」を守るため、体重700g未満は海へ戻します。
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固く鋭い歯を取り除いてからイケスに入れます。
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夕方16時頃、漁船が帰港すると、仲買人たちは船上で入札をおこないます。
地域全体で大切に育てる「あのりふぐ」
安乗地区では戦前から、トラフグ漁がおこなわれていました。しかし地元に販売ルートがなく、トラフグは県外まで船で運ばれ、高値で出荷されることも少なくありませんでした。そこで地元の漁業者、観光業者、飲食店、行政が一体となって、2003年に「あのりふぐ協議会」を立ち上げ、「あのりふぐ」のブランド化へ乗り出しました。愛知県や静岡県の漁業者と協力しあって資源管理体制を整えたり、トラフグ稚魚の放流事業に取り組んだりと、地域全体で「あのりふぐ」を大切に育てています。
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伊勢湾の栄養豊富な水で育った「あのりふぐ」。身がぷりぷりとして美味しいと評判です。
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「あのりふぐ協議会」の山川源一(やまかわげんいち)さん(右)と仲野義光(なかのよしみつ)さん(左)。
仲買人が営む「あのりふぐ」の専門店
安乗漁港から車でわずか5分のところにある「まるせい」
店で「あのりふぐ」をメニューとして提供するには「志摩市内にあり、認定を受けた認定取扱店のみ」という条件を満たさなければなりません。
安乗漁港から車でわずか5分のところにある「まるせい」は、新鮮な「あのりふぐ」をリーズナブルな価格で食べられる店として、県外からもふぐ愛好家が訪れる店です。社長の片山勝仁(かたやまかつひと)さんは「あのりふぐ」の仲買人でもあり、かつては除毒とさばきをおこなう「磨き加工(ふぐ調理)」を生業としていましたが、「料理も提供してほしい」という地元の声に応え、2007年に「まるせい」をオープンしました。
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「あのりふぐ」のイラストが目印の「まるせい」。
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船をイメージさせる店内。
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目利きの仲買人でもある店長の片山勝仁さん。
冷凍ものは一切使わない、鮮度抜群の「あのりふぐ」
片山さんのこだわりは、冷凍ものを一切使わないこと。前日にさばいた鮮度の良い「あのりふぐ」だけをお客さまに提供しています。
「ふぐは3~4日寝かせると美味しいといわれますが、じつは料理人がてっさ(刺身)を薄く切りやすくなるというだけのことです。当店では、てっさの薄さより、鮮度を大切にしています。今まで食べたふぐの中で一番美味しいと言ってくれるお客さまもいます」と片山さんは言います。
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てっさ(刺身)、ふぐの唐揚げ、てっ皮(ふぐの皮)、土瓶蒸し、ふぐ飯、香の物がセットになった「あのりふぐ御膳」3,000円(税別)。
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鮮度抜群の「白子天麩羅(しらこてんぷら)」1,000円(税別)。11月下旬からメニューに登場。
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「まるせい」自慢の「焼き白子」3,000円(税別)。こちらも11月下旬からメニューに登場。
「あのりふぐ」の問屋「心勢水産(しんせいすいさん)」
注文が入ってからさばいて出荷
「まるせい」社長の片山さんは、「あのりふぐ」の問屋、「心勢水産」も営んでいます。安乗漁港で水揚げのある日は必ず入札に参加し、厳しい目で選んだ「あのりふぐ」を買い付けます。「心勢水産」のイケスには常時、何百匹もの「あのりふぐ」を確保しており、注文が入ってから、さばいてお客さまのもとへ出荷します。
直接、「心勢水産」まで足を運び、イケスから好きな「あのりふぐ」を選び、その場でさばいてもらうことも可能です(加工費1,000円 税別)。
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飲食店「まるせい」に隣接する、「あのりふぐ」の問屋「心勢水産」。
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シーズンの10月~2月は常時、何百匹もの「あのりふぐ」が泳ぎ回るイケス。
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1.5kg~2kgの「あのりふぐ」は脂がのっておいしいと語る片山さん。
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ふぐ身、ふぐあら、てっ皮などがセットになった「あのりふぐ鍋セット」。約2~3人前10,000円(税込)から。全国送料無料。
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アクセス&インフォメーション 心勢水産
三重県志摩市阿児町安乗178-3
Tel:0599-47-0129
※電話またはネットで注文することができます
あのりふぐ通販サイト
■車でのアクセス
伊勢自動車道「伊勢西IC」または「伊勢IC」より「伊勢道路」「国道167号」経由で約50分
マンボウが泳ぐ水族館「志摩マリンランド」
1970年にオープンした歴史ある水族館
安乗漁港から南西に車を走らせること約25分。賢島(かしこじま)へとつながる賢島大橋を渡ると、「志摩マリンランド」があります。
1970年にオープンした歴史ある水族館ですが、2016年に賢島で開催された「伊勢志摩サミット(第42回先進国首脳会議)をきっかけに、車椅子の方でも楽しめるよう施設内をバリアフリーにしました。
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近鉄「賢島駅」より徒歩約2分とアクセス抜群の「志摩マリンランド」。
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館内を案内してくれた係長の中里吉伸(なかさとよしのぶ)さん。
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入口に設置された水槽付き「賢島(かしこいしま)神社」。学業成就にご利益あり?
「回遊水槽」でおこなわれる海女の餌付け実演
「志摩マリンランド」の目玉といえば、巨大なドーナツ形をした「回遊水槽」です。約2,500匹の魚たちが、泳いでいる眺めは圧巻です。また、海女が水槽の中に入り、餌やりをする様子も見学できます。
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巨大なドーナツ形をした「回遊水槽」。
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サメ、ブリなど約50種2,500匹の魚が泳ぐ「回遊水槽」。
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海女による餌付け実演は大人気です。
通称「海ののんき者」といわれるマンボウは必見
「回遊水槽」の他にも、成長すると全長3m以上にもなるマンボウが悠々と泳ぐ「マンボウ館」、天然記念物に指定されている希少魚を鑑賞できる「淡水魚・希少魚コーナー」など、約450種7,000匹が「志摩マリンランド」で飼われています。
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通称「海ののんき者」といわれるマンボウは「志磨マリンランド」で一番の人気者。
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ウロコを持つ淡水魚のなかで世界最大級とされるアマゾンの巨大魚「ピラルク」。
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角質を食べて肌をきれいにするという「ドクターフィッシュ」のタッチングを体験できます。
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アクセス&インフォメーション 志摩マリンランド
三重県志摩市阿児町神明723-1(賢島)
Tel:0599-43-1225
営業時間 9時~17時(季節によって異なります)
年中無休
入館料 大人1,400円 中高生900円 小学生600円 幼児(3歳以上)300円
※団体割引、年間パスポートあり
■電車でのアクセス
近鉄「賢島駅」より徒歩約2分
■車でのアクセス
伊勢自動車道「伊勢西IC」または「伊勢IC」より「伊勢道路」「国道167号」経由で約40分
志摩マリンランドホームページ
今日はおうちで農食レストラン
「白身の王様」と呼ばれるふぐ。たんぱく質に加え、疲労回復に作用するタウリンが豊富です。また、ふぐ皮には美肌効果をもたらすコラーゲンがたっぷり含まれ、しかも低カロリーと美容にうれしい食材です。ふぐといえば「てっさ(刺身)」が有名ですが、今回はふぐの旨みを満喫できるアイデアレシピを紹介します。
蓮沼 あい
食品メーカーへのレシピ提供や撮影協力、広告・雑誌でのレシピ紹介をはじめ、飲食店のプロデュースや料理イベントまで幅広く手がけ、食育をテーマにしたテレビ番組にも出演中。
ウェブサイトhttp://ai-hasunuma.com
〈材料(2人分)〉
- ご飯 お茶碗1杯分
- ふぐの身 200g
- みつば 適量
出し
- ふぐのあら 200g
- 水 400ml
- 昆布 1枚(5cm×8cm)
- 塩 小さじ1/3
- 醤油 小さじ1
- 片栗粉 大さじ1
- 水 大さじ2
A
- 酒、醤油、みりん 各大さじ1/2
- 片栗粉 大さじ1~2
〈作り方〉
- おこげを作る。ご飯をクッキングシートに広げ、ラップをせず500Wの電子レンジで2分加熱し、ご飯の上にもう1枚クッキングシートをのせて裏返す。上になったクッキングシートを外し(Point1)、さらに2分加熱して粗熱を取る。粗熱が取れたら一口大に切る
- 出しを作る。ふぐのあらに90度くらいの熱湯をまわしかけてから、流水で洗う(Point2)
- 鍋に水400mlと昆布、2のふぐのあらを入れ、中火から弱火で10分ほどかけて加熱する(Point3)。沸騰する直前に昆布を取り出し、弱めの中火で20分ほど煮る。出しを取ったら塩と醤油で味をととのえ、水溶き片栗粉でとろみをつける
- ふぐの身はAの調味料につけて10分置き、水気をさっと拭いて片栗粉をまぶす
- 鍋に180度の油を熱し、1のご飯をカリッとするまで揚げる。4のふぐも180度の油できつね色になるまで揚げて器に盛り付け、熱々の3のスープをかけてみつばを散らす
おいしく作るポイント
ご飯を薄く均一に延ばすことで、おこげがカリッと仕上がります
指先で丁寧にふぐのあらの汚れを流水で取り除きます
昆布に切り込みを入れておくと、旨みがよく出ます
〈材料(12個分)〉
- ふぐの刺身(てっさ) 24切れ
- 昆布 1枚(5cm×8cm)
- 米 1合
- 飾り用すだち 適量
A
- すだちの搾り汁 小さじ2
- 酢 小さじ2
- 塩 小さじ1/4
- 砂糖 小さじ1/4
〈作り方〉
- ふぐの刺身を、固く絞ったふきんでさっと拭いた昆布で挟み、2時間ほど置く(Point1)
- 米を少なめの水で炊く。ご飯が炊けたらAの調味料を混ぜ、直径4cmほどの大きさに12個分握っておく
- ラップに1の刺身を2切れ置き、その上に2をひとつのせ、ラップごと丸く形を整える
- 3のふぐの上に薄く切った飾り用のすだちをのせる
おいしく作るポイント
2時間以上、昆布締めすると水分が抜けてしまうので注意しましょう
〈材料(6個分)〉
- 昆布 1枚(3cm×5cm)
- 大根 5g
- にんじん 5g
- 塩 ひとつまみ
- ふぐ皮(てっ皮※) 15g
- 市販のキムチの素 大さじ1
- ごま油 小さじ1/2
- 豆腐 1/2丁
- 大葉 3枚
- いりごま 適量
※ふぐの皮を湯引きし、細く切ったもの
〈作り方〉
- 昆布をキッチンバサミで細長く切る
- 大根とにんじんを千切りにして塩をまぶし、1と和えて20分ほど置く
- ビニール袋に2、ふぐ皮、市販のキムチの素、ごま油を入れてよく揉み、味をなじませる(Point1)
- 豆腐を一口大に切り、半分に切った大葉をのせ、その上に3をのせ、いりごまをふる
おいしく作るポイント
手でしっかり揉み込むことで、ふぐ皮に味をなじませます
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「あのりふぐ鍋セット」を2名さまにプレゼント!
締切日 12月14日(金)
三重県志摩市阿児町安乗178-3
Tel:0599-47-0128
営業時間 ランチ11時~15時(ラストオーダー14時)、ディナー17時~21時(ラストオーダー20時)
※ディナーは当日15時までに要予約
定休日 火曜(祝日の場合は翌日の水曜)
■車でのアクセス
伊勢自動車道「伊勢西IC」または「伊勢IC」より「伊勢道路」「国道167号」経由で約50分
まるせいホームページ
営業期間 冬期のみ(10月~翌年3月)